2018 FIFAワールドカップ ロシア

18/07/06【日本代表】信頼と誇り。稀有なリーダー・長谷部誠が告げた日本代表への別れ

(写真:Getty Images)

 8年間。W杯3大会にわたって、日本の主将を務めた。長谷部誠が、日本代表を引退する。誰よりも冷静で、誰よりも周囲を見渡し、慮ってきた主将がいま、日の丸を背負う戦いに終止符を打った。

 10年南アフリカ大会。開幕直前に下した岡田武史元監督の決断がなければ、主将・長谷部は誕生していなかった。中澤佑二から若きMFへ主将が交代。「あのころは右も左も分からず、ただガムシャラだった」。前評判が低かったチームに刺激を与える。長谷部の主将就任はそんなカンフル剤の要素も含まれていただけに、何としてでもチームに勢いをもたらすべく、先頭に立ってピッチで激しく戦った。

 14年のブラジルW杯は、ケガを抱えたまま大会を迎え、厳しい状態で試合をこなした。調子を取り戻すことなく、自身もチームも低調なまま敗退。長谷部にとって、思い入れが強かった当時のチーム。自らを誰よりも信頼し「お前は日本のマルディーニになれる」とまで評してくれたアルベルト・ザッケローニ元監督を勝たせることができなかったことに、最後は涙した。

 ここ数年は、主将として苦悩の時期を過ごした。「年々、苦しい時間が増してきたかなと思います」。重責を担い続けることで、募っていく負荷。それに加え、激しく、厳しい態度で接していたヴァイッド・ハリルホジッチ前監督と選手の間を取り持つことに、常に苦心し続けていた。板挟みになりながら、何とかチームを一つにしていこうと行動する。表には出さなかったが、その難しさがしばしば厳しい表情に表れることも最近は多かった。

 かつてはプレースタイルも性格も違った。ドリブルで仕掛け、奔放に生きる。「日本にいたころはよく飲みにも出かけた。懐かしいですね」とかつての自分に苦笑いしていたこともあった。『心を整える』と題した著書がベストセラーになるなど、現在は真面目で一徹なイメージ。ただ、自分を客観的に見る彼は「いまの僕はキャプテンになってから、周りの人々が作っていってくれた自分のキャラクターだと思っています」と称する。

 今回の代表引退に際しても、あらためて自身をこう述べている。「例えば、監督や選手たちとの信頼関係など、もともと自分はそんなに周りに気を使えるほうではなかったんですけど、そこは少し変わった。キャプテンを経験して、選手としてよりも一人の人間として成長できたことのほうが大きかったと思います」。

 長谷部の決断を、川島永嗣が惜しみ、吉田麻也が涙し、長友佑都が賛辞を贈る。本田圭佑は「(主将は)マコ(長谷部)にしかできない役割」と常に話していた。キャプテンマークを外すだけでなく、代表からも去る。布陣の重心・ボランチで、心身ともに落ち着きを与えてきた男がいなくなる。これほどの空虚感があるだろうか。

「大変なことも間違いなく多かったけど、それ以上に、いわば、誇りですね。そのほうが大きかったです」

 井原正巳、森岡隆三、宮本恒靖、そして長谷部誠。W杯で主将を経験した4人の戦士。もちろん、3大会連続で務めたのは、長谷部のみ。その実績が、その所作が、彼の振る舞いすべてが、信頼の塊だった。

文・西川 結城

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