マッチレポート

【EURO2016 ウェールズ代表総括】4強進出を足掛かりに、更なる飛躍へ


初の大舞台で存在感を示したベイル(写真:Getty Images)

ベイルを軸としたシンプルなサッカーで躍進

「大会から去ることになったが、ウェールズに涙はない。もちろん、痛みもない。我われの手元にあるのは誇りだけである。そして、新しい物語をスタートさせるための自信をつけた。スペシャルな次章の幕開けだ──」

 ポルトガルとの準決勝に敗れた翌日、地元メディア『ウェールズ・オンライン』は力強く記した。開幕前は苦戦が予想されていたが、イングランドを上回る首位でグループリーグを突破。快進撃はこれだけで終わらず、北アイルランド(決勝トーナメント1回戦)、ベルギー(準々決勝)を下して4強まで勝ち進んだ。アイスランドとともに旋風を巻き起こし、ユーロを大いに盛り上げた。

 特筆すべきは、試合を重ねるごとに熟成を深めていったことにある。開幕当初はギャレス・ベイルへの依存度が極めて高かったが、大会が進むにつれ、組織力は飛躍的に向上した。CBのアシュリー・ウィリアムズが潰して、MFアーロン・ラムジーが展開し、最後はFWガレス・ベイルが仕留める──。要人がタスクをきっちりこなせば、正確なパスで攻撃のリズムをつくるMFジョー・アレン、攻守に安定した動きを見せたDFクリス・ガンターとDFニール・テイラーのサイドバックも、チームの歯車として機能した。おまけに、ベルギーとの準々決勝でクライフターンからネットを揺らしたFWハル・ロブソン・カヌという“ラッキーボーイ”も出現。チームの勢いは増した。

 とは言っても、3−4−2−1の組織的なサッカーをベースとしながら、そこにプラスアルファのパワーをつけていたのは、やはりベイルである。あるときは前線に残り、またある時はサイドに張ったりと、「王様」としてピッチを自在に動きまわった。チーム戦術に複雑なメカニズムは見えなかったが、ベイルを軸にしたシンプルなサッカーを徹底したことが勝因につながった。

 また、選手たちの仲の良さ、チーム内に漂う雰囲気の良さも4強進出の原動力になった。ベイルが「チームのため」と強調すれば、ラムジーも「ウェールズの良さは団結力」と続ける。前任のガリー・スピード氏が不慮の死を遂げるという悲劇を乗り越え、チームが一枚岩になって戦ったことで、プレーに一体感があった。

”赤い壁”との愛称を持つウェールズ代表サポーターは国歌の「我が祖先の地」を高らかに歌い、地元メディアも「ラグビーだけの国じゃないことを証明した」と胸を張った。地元ウェールズで行われた凱旋パレードには、約20万人もの国民が参加。ウェールズ人にとって、今回のユーロは一大イベントになった。そのせいか、敗戦後の選手たちに涙はなかった。

 だがこれだけで満足せず、今大会の主要メンバーは、18年ロシアW杯での上位進出を目指す。あご髭がトレードマークのMFジョー・レドリーは言う。

「俺らはポテンシャルを間違いなく開花させたと思うが、まだまだ成長の伸びしろはある。しかも、大半の選手が20代でチームとしても若い。今大会でつけた自信を胸に、これからもチーム力をドンドン伸ばしていきたい。だって、もっと上へ行けない理由なんてない」

 フランスでの4強進出は、「スペシャルな次章」のためのプロローグにすぎないかもしれない。

《文=田嶋コウスケ》

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