マッチレポート

【EURO2016 ポルトガル代表総括】実利を追求した結果の初戴冠

初のビッグタイトルをつかんだポルトガル(写真:Getty Images)

もろさを見せなかった新王者

 90分間で試合を見るのならば、今大会のポルトガルは1勝5分け。過去24カ国で行なわれた1990年イタリアW杯、94年アメリカW杯でもグループリーグ3位通過でのチームが優勝を果たしたことはなかった。それだけに、ポルトガルの優勝は“EUROらしさ”が詰まった大会と言えるのかもしれない。

 後ろに重心を置き、DFペペらを中心に手堅い守備ブロックをつくり相手のアタックを封殺する。焦り出した相手が攻撃に比重をかけてきたところを見逃さない。エースFWクリスティアーノ・ロナウド、FWナニの2トップにジョーカー役のFWリカルド・クアレスマ、そしてMFジョアン・マリオと今大会ベストヤングプレーヤーに選ばれた18歳のMFレナト・サンチェスらが最小限のチャンスを生かしきる。決勝戦では試合序盤でロナウドが左ひざを負傷して涙でピッチを去ったが、手堅い守備には影響が出ず、むしろフランスの“攻め疲れ”を誘う形となった。

 決勝トーナメントに入って以降、試合を経るごとにリスクを徹底的に排除しつつ、結果を出すことに全神経を研ぎ澄ませた。その姿は12年前のEUROで、世界中にサプライズを巻き起こしたギリシャの優勝を想起させるものだった。そしてその決勝の舞台で涙を飲んだのは、ポルトガルだったという因縁もある。

 かつてのポルトガルのイメージといえば高い個人能力を持つ選手が多い一方で、もろさを指摘されることも多かった。特に象徴的なのが前述の自国開催でのことだ。

 当時キャリアの終盤を迎えたFWルイス・フィーゴ、MFマヌエル・ルイ・コスタら「黄金世代」、そして当時19歳ながら将来を嘱望されたロナウドを擁し、決勝の舞台へとたどり着いた。しかしファイナルでは開幕戦を1-2で落としたギリシャに0-1と再び屈し、準優勝。勝負弱いイメージを払拭することはできなかった。

 ギリシャに煮え湯を飲まされた形となったポルトガルだが、今回のEUROでその因縁の国で長く指揮を執った指揮官がメジャータイトル初の栄光に導いたのが興味深い。14年のブラジルW杯でグループリーグ敗退に終わった代表チームは、W杯後からフェルナンド・サントス監督を招聘した。ポルトガル人のサントス監督はポルトで国内リーグ5連覇を果たしたのをはじめ、ベンフィカ、スポルティング・リスボンの国内3強を率いたと同時に、ギリシャでもパナシナイコス、AEKアテネなどを率いて、両国で実績を積み重ねた人物である。

 そしてサントス監督は、2010年から14年まではギリシャ代表を率いている。前回のEURO2012ではベスト8に進出し、14年W杯でもアルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表と同グループに入り、日本戦では退場者を出しながらも老獪な守りでスコアレスドローに持ち込み、最終的には決勝トーナメントを果たした。

 決してエンターテインメント性は高くないが、容易には崩れない。ギリシャサッカーのパブリックイメージを地で行くサントス監督のスタイルが、是が非でも結果の欲しいポルトガルにとって切り札であったことは間違いない。華麗さを最小限にとどめて実利を追い求めた結果が功を奏した。

 またグループステージで同組だったアイスランドの躍進も、結果的に追い風となった。GS最終戦でポルトガルはハンガリーに3-3のドローで試合を終えたが、同時キックオフだったアイスランド対オーストリアが試合終了直前に勝ち越したことで、アイスランドがグループ2位、ポルトガルは同3位と順位が入れ替わった。

 もしこれが2位であれば、ポルトガルは決勝トーナメントでイングランドやドイツ、イタリア、スペイン、そして決勝で対決したフランスと同じ“死の山”に組み込まれる羽目になっていた。GS初戦でポルトガル以上の守備的戦術を敷いたアイスランドに対して、ロナウドが「精神的に小さい」とのコメントを残して物議を醸したが、決勝トーナメントの組み合わせの妙が生まれ、また準決勝ではFWガレス・ベイル擁するウェールズとのレアル・マドリーのエース対決が実現したとも言える。

 12年前の決勝カード両国の因縁に、小国の躍進――。波乱が興奮を呼ぶEUROらしさのクライマックスが、ポルトガルの戴冠だったことは間違いない。

《文=茂野聡士》

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