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16/05/31【CL決勝】レアルに11度目のCL優勝をもたらしたジダン監督の手腕

全員がハードワークしたレアル・マドリー(写真:Getty Images)

リーガとは異なる顔を見せたダービー

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝は今季見たリーガのダービー(第7節1-1、第26節0-1)とスコアは似ていたが、ある点でまったく異なっていた。ビセンテカルデロンで54%、サンティアゴベルナベウで68.7%だったレアル・マドリーのボール支配率が、サンシーロでは47.7%と初めて50%を割ったのだ。試合途中の“瞬間風速”では38%と表示された時もあった。

 先制したレアル・マドリーはボールをアトレチコ・マドリーにプレゼントし、11人全員が自陣に引いて守った。戦術的には有効な手段である。カウンターが武器であるアトレチコ・マドリーにボールを与えることは、逆説的に相手の武器を取り上げることを意味し、レアル・マドリーにとっても最大の武器であるFWクリスティアーノ・ロナウドとFWガレス・ベイルの快速で止めを刺すシナリオが成立するからだ。だがあれはやってはいけない、「禁じ手」ではなかったか。

 第7節FWカリム・ベンゼマのゴールで早々に先制したラファエル・ベニテス前監督は2点目を取りに行かず、リードを維持する策に出た。88分に同点に追い着かれて、この逃げ切り策は失敗。「守備的だ」、「弱気だ」、「小物の戦い方だ」、「レアル・マドリーらしくない」と袋叩きにあったベニテスは、この試合をきっかけに解任への道を歩き始めたのだった。

 ひるがえって後任のジネディーヌ・ジダン監督は何をしたか? あの時は少なくとも敵陣にベンゼマとC・ロナウドを残していたが、今回は全員で引いた。そうして後半一方的に攻められた挙句、79分にMFヤニック・カラスコの同点ゴールで追い着かれた。さらに悪いことに、その3分前の76分に3人目の交代枠を使い切っており、延長戦を交代無しで戦う羽目にもなっていた。C・ロナウド、MFルカ・モドリッチ、ベイルが筋肉疲労で走れない状態で120分間を終えたのは、みなさん見ての通りだ(幸いPKへの影響は最小限だったが)。

監督就任1年目で大仕事をやってのけたジダン監督(写真:Getty Images)

監督就任1年目、ジダンの手腕

 今スペインでジダンの采配は非難されているか? 真逆である。未経験に近い状態で途中就任したにもかかわらず、CL11冠目を達成したジダンは絶賛の嵐に包まれ、彼を抜擢したフロレンティーノ・ペレス会長もヒーロー扱いされている。“あの守り方がレアル・マドリーのプライドに反する”などという小言はゼロ。なぜか? もちろん勝ったからである。PKを決めたのがDFファンフランで外したのがロナウドだったら、ジダン采配は今頃手厳しく批判されていたはずだ。

 個人的には11人で守るのは“ありだ”と思っているし、ディエゴ・シメオネ監督のようにポゼッションを重視しない戦い方がリーガの戦術を多彩にしレベルを上げている、と評価している。私が納得できないのは、監督の仕事を評価する者、フロントやファンと異なり結果オーライであるべきでないジャーナリストたちの一貫性の無さ、である。

 ジダンのこの夜の采配は、DFセルヒオ・ラモスのゴールを生む素晴らしいセットプレー以外は、ミスの方が多かったと思う。しかし、それはジダンに超一流の監督になる資質がない、という意味ではない。その逆だ。ジダンにはベニテスにない巨大なカリスマがある。MFハメス・ロドリゲスをベンチに置きMFカセミロを先発させたら、ベニテスなら大騒動だったがジダンなら誰も文句は言えない。ロナウドやベイルがSBの位置にまで下がって守備をすることは、ベニテス時代には“不名誉なこと”だったから、彼らも本気でやっていなかったが、ジダンに指示されれば全力でやる。ジダンには超一流の監督になるのに不可欠な圧倒的な説得力がある。

 延長戦のハーフタイムにC・ロナウドに近寄って何事かを囁きかけ、2人とも笑顔を見せるシーンがあった。緊張感と疲労が極限までに高まっている時に、ああいうことができるのは元超一流プレーヤーとして場数を踏んでいるからだろう。超一流は超一流を知る。最後のPKをC・ロナウドが決められたのは、あの笑顔と大いに関係があると思っている。

《文=木村浩嗣》

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